次の日の朝、僕たちはご飯を食べたらすぐに宿屋さんを出たんだ。
何でかって言うとね、帰る前にニコラさんたちのお引越しをしなきゃって思ったからなんだよ。
なのにそのニコラさんたちを見たらちょっとおっきめの肩掛け袋を持ってるだけだったもんだから、すっごくびっくりしたんだ。
「ニコラさん。お引越しの荷物はどうしたの? もしかして、宿屋さんに忘れて出てきちゃった?」
だから僕、ずーっと泊まってたから、今日もいつもとおんなじつもりで宿屋さんに置いて来ちゃったのかも? って思ったんだよ?
でもね、そんな僕にニコラさんたちは、笑いながら違うよって。
「私たちは元々、この程度の荷物しか持っていないのよ」
「冒険者は依頼があれば、護衛のために遠くの街に出かけるなんて事もあるでしょ? だから極力、余分なものは持たないようにしてるってわけ」
ニコラさんたち、今日は初めて会った時とおんなじ格好をして、背中にはおっきなマントまでつけてるんだよ。
それに武器だって腰につけてるもんだから、荷物になるようなものは肩に担いでる袋に入るくらいしかないんだって。
「今はその他にもルディーン君に買ってもらった服とかがあるんだけど、その殆どはルディーン君のお屋敷に置きっぱなしでしょ?」
「それに服なんて今までの生活じゃそう何枚も買えるものじゃなかったから、ルディーン君に出会うまでは今着てる服と、それを洗濯しているときに着るボロボロのものしかなかったのよ」
「その服もルディーン君に新しいのを買ってもらったから、処分しちゃったのよね」
お洗濯のときに着てた服はね、古着屋さんに持ってっても買い取ってくれないくらいボロボロだったんだって。
でもそんな服でも、ばらばらにしたらつぎはぎには使えるでしょ?
だから近くにある教会へ、孤児たちの服を治すのに使ってくださいって渡してきたんだってさ。
「そんな訳で、今私たちが持っているのは昨日着ていた服だけってわけ」
「それにこの袋だって、私たちのものじゃないのよ?」
「ええ。ルディーン君に買ってもらった服を入れるのに、私たちの袋じゃ汚れちゃうからってストールさんから貸してもらったののなのよ」
僕が買ってあげた服は、ストールさんが選んでくれたものでしょ?
だから、いっつもお外に持ってってた袋に入れてもしお洗濯しても取れないような汚れがついちゃったら怒られちゃうからって、入れる袋も昨日のうちに借りといたんだってさ。
「そっか。忘れて来たんじゃないんだね」
「ええ、そうよ。でも、心配してくれてありがとうね」
お礼を言われた僕は、何か嬉しくなってニコニコしながら僕んちに歩いてったんだ。
「あれ? もう馬車が来てる」
僕んちに着くとね、そこに馬車が来てたもんだから僕、ちょっとびっくりしたんだよ。
何でかって言うと、イーノックカウを出るのはもっとず〜っと後のはずだからなんだ。
「何でもう来てるのかなぁ?」
「いや、あれは我々を送ってくれる馬車ではないようだ」
だから僕、なんでかなぁって頭をこてんって倒したんだけど、そしたらその馬車を見たお爺さん司祭様が、あれは変えるための馬車じゃないみたいだよって。
「司祭様。何でそう思うの?」
「ほれ、あの馬車には紋章の入った旗が立っておるであろう? あれはな、ヴァルトの家の紋章なのだ」
僕たち、ここに来る時はロルフさんが領主様から借りた馬車で来たでしょ?
でもその馬車にはあんな旗、ついてなかったんだよね。
それにさ、僕たちの帰りの馬車は錬金術ギルドが出すってバーリマンさんが言ってたでしょ?
だからあれは僕たちが帰るための馬車じゃないって、お爺さん司祭様は考えたんだってさ。
「って事は、ロルフさんが来てるって事かなぁ?」
「そういう事なのだろうが……はて、ヴァルトならば、わざわざ馬車に紋章の入った旗など立てぬのともうのだが」
そう言えばロルフさんちから錬金術ギルドに連れてってもらった馬車も、あんな旗、ついてなかったんだよね。
なのに何で今日は、あんなのがついてるんだろうねってお話しながら、僕たちはその馬車の横を通ってお家に入ってったんだ。
「おお、ルディーン君、それにラファエルも。思ったよりも早く着いたのぉ」
「あっ、ロルフさんだ! 司祭様、やっぱりあの馬車、ロルフさんのだったね」
「うむ。その様だな」
そしたら中にロルフさんがいたもんだから、僕はやっぱりロルフさんの馬車だったねってにっこり。
でもね、そんな僕と違ってお爺さん司祭様は中にいたロルフさんに、何でいつもと違う事をしたの? って聞いたんだよね。
「ヴァルトよ。紋章が入った馬車は本来、公務などにしか使わぬはずであろう? なのに今日は何故、あの馬車を使っておるのだ?」
「いやな、実はルディーン君が帰る前に一つ、やってもらいたい事があるのじゃよ」
「僕にやって欲しい事?」
何であんなのがくっついてる馬車で来たのかなぁ? って思ってたから二人のお話を横で聞いてたんだけど、そしたらそこに僕の名前が出て来たもんだからびっくり。、
だからなんかやる事があるの? って聞いてみたら、ロルフさんがポケットからちっちゃな皮の袋を取り出したんだ。
「うむ。実はな、ルディーン君にフロートボードの魔法陣を魔石に刻んで欲しいのじゃよ」
お外にある馬車、あれは僕んちにあるお尻の痛くならない馬車とおんなじ作り方がしてあるそうなんだよね。
だから後はフロートボードの魔法陣が刻んである魔石をくっつければ、お尻の痛くならない馬車になるんだってさ。
「実はあの馬車はわしのものではなく孫のものでな」
ロルフさんのお孫さんはね、帝都にいる魔法使いさんにフロートボードの魔法を刻んである魔石を作ってってずっと前から頼んでたんだって。
でもお尻の痛くない馬車が欲しいって人はいっぱいいるから、なかなか順番が回ってこなかったそうなんだよね。
「その順番がそろそろ回ってくるとの事で我が孫はあの馬車を作らせたのじゃが、どうやらそれがさらに伸びる事になったようなのじゃ」
「何で? もうすぐ順番が来るはずだったんでしょ?」
「それがどうやら、その魔法使いが病気になってしまったそうでのぉ」
その魔法陣を刻んでくれるって言う魔法使いさん、結構年をとってる人なんだって。
だからご病気になると無理をしちゃダメだからって、完全に治るまでは全部のお仕事をやめて休んじゃうそうなんだ。
「若い者と違って、わしらのような年寄りは一度病気になると治るまでが長いからのぉ」
「ふむ。病気を治す魔法が無いわけではないが、あれは患者の体力をかなり使う物だからな。年寄りに使えば、かえって悪くなるやもしれぬからな」
「うむ。じゃからそれを聞いた我が孫は、楽しみにしていただけに見ておれぬほど気落ちしておるのじゃ」
ロルフさんのお孫さんはね、お仕事で遠いとこに行く事がよくあるそうなんだよ。
でも普通の馬車だと柔らかい椅子が付いててもがたがた揺れるから、乗ってるとすっごく疲れちゃうんだって。
それがやっと疲れない馬車ができるって喜んでたのに、それが急にダメになっちゃったでしょ?
それを聞いてすっごくしょんぼりしちゃったお孫さんを見て、ロルフさんは何とかしてあげたいなぁって思ったんだってさ。
「じゃからな、ルディーン君。すまぬがこの魔石に、魔法陣を刻んではもらえぬか?」
「うん、いいよ!」
僕のステータスって、使えるようになった魔法は全部のっかるようになってるんだ。
でね、それは魔法陣もおんなじみたいで、前にお家でお尻の痛くならない馬車を作ったでしょ?
その時に刻んだ魔法陣は、フロートボードのとこに載ってるから魔石さえあればすぐに作れちゃうんだよね。
「おお、やってくれるか」
「いや、ヴァルトよ。少し待て」
だからいいよって答えたら、ロルフさんは大喜び。
でもね、そこでお爺さん司祭様がちょっと待ってって止めたんだよね。
「りょ……貴様の孫の馬車の魔石をルディーン君に造らせて、本当に大丈夫なのか?」
「おお、その事ならば心配はない。ギルマスのつてを使って手配したことにするからな」
お爺さん司祭様はね、僕がお尻が痛くならない馬車を作れるって他の人が知ったら悪もんが来るかもしれないって心配したんだって。
だから大丈夫なの? って聞いたんだけど、それはロルフさんも解ってたみたいでバーリマンさんに頼んだことにするって言うんだよね。
「ギルマスにはアミュレットを作る知り合いが多くいるからのぉ。それにフロートボード自体は習得するのが簡単な魔法じゃから、冒険者をやっておった老錬金術師に無理を言って刻んでもらったという事になっておるのじゃよ」
「ふむ。確かに錬金術ギルドのマスターならば、そのようなつてがあってもおかしくはないか」
このお話はね、バーリマンさんにもお話してあるんだって。
だから何の心配もないんだよって言いながら、ロルフさんは僕に魔石を渡してきたんだ。
「それとな、帰りの馬車はギルマスが用意する事になっておったが、外の馬車に魔石を取り付けたらその試運転としてあれに乗って帰ってもらおうと思っておるのじゃ」
「いいの? さっきお外で見たけど、すっごい馬車だったよ?」
「うむ。無理を言っておるのはわしの方じゃからな。それぐらいの事はせねば」
ロルフさんがそう言ってくっれたもんだから、僕は気合を入れて魔石に魔法陣を刻んだんだよ。
そしたらロルフさんは、その魔石を持ってお外へ。
すぐに紋章の書いてある旗がついた馬車に、その魔石を取り付けたんだ。
「あらかじめ魔道リキッドは入れてあるから、これで動くはずじゃ。起動させてみよ」
「はい、旦那様」
でね、御者台にいたおじさんに、魔道具を動かしてって言ったんだよ。
そしたら馬車の乗るとこがちょびっとだけ浮かんだのを見て、ロルフさんはうんうんって嬉しそうにうなずいたんだ。
「それにしても、ギルマスは遅いのぉ」
「いや、われらが早く来ただけであって、まだ出発の時間にはなっておらぬではないか」
ロルフさん、僕たちがもっと後になってから来ると思ってたでしょ?
それとおんなじで、バーリマンさんも僕たちはもっと遅く来ると思ってるんだって。
だから時間までには来るよってお爺さん司祭様は言ってたんだけど、
「皆様、お待たせしました」
そしたら丁度そこでバーリマンさんが、僕たちのいるお部屋に入ってきたんだ。
「おお、待っておったぞギルマス。して、頼んでおいたものはちゃんとそろっておるな?」
「はい、それは抜かりなく」
でね、そんなバーリマンさんにロルフさんはよく解んない事を言ったんだよね。
だから僕、何の事だろうって頭をこてんって倒したんだけど、それはお外に出たらすぐに解ったんだ。
「わぁ。おっきな荷馬車が置いてあるよ」
「これに積んであるのはね、ロルフさんからルディーン君へのお礼。親御さんへのお土産よ」
そこにはね、樽とか木箱がいっぱい積んであるホロ付きのおっきな荷馬車があったんだよ。
でね、バーリマンさんが言うには、これはフロートボードの魔石を作ってくれたお礼にロルフさんが用意したものだって教えてくれたんだ。
「わぁ、すっごくいっぱいのってる。でも、ロルフさん。こんなにいっぱい、いいの?」
「うむ。ルディーン君はそこいらにいる魔法使いよりもはるかに魔力が高いからのぉ。そんな君に魔法を刻んでもらったのじゃから、これくらいのお礼は当たり前じゃよ」
初めてイーノックカウに来た時も言ってたけど、魔法使いさんや錬金術師さんの手間賃ってとっても高いんだって。
だから僕がやったフロートボードの魔法陣を刻んだら、これくらいのお礼をもらってもおかしくないんだってさ。
「本来はお金を支払うべきなのじゃろうが、ギルマスに相談したところこの方がよいと言われてしまってな」
「それはそうですよ。グランリルの村に帰ったらお金なんて持っていても仕方が無いのだし、かと言って今から土産を買いに行く時間もありませんもの」
バーリマンさんはね、僕が持って帰ったらお父さんやお母さんが喜ぶものを選んで馬車に載っけてくれたんだって。
「ありがとう! お父さんとお母さんも、これ見たらすっごくびっくりすると思うよ」
「うむ。喜んでもらえたら嬉しいのじゃが」
「それじゃあ、ルディーン君。気を付けて帰るのよ」
お見送りしてくれるバーリマンさんも来てくれたって事で、僕とお爺さん司祭様は馬車の中へ。
でね、扉を閉めてもらうと、僕は小窓を開けてお外のみんなにバイバイしたんだ。
「みんな、またね!」
「うむ。また来るのじゃぞ」
「ええ。楽しみに待っていますからね」
こうして僕たちは、ちょっぴり懐かしいグランリルの村へと向かって行ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ちょっぴり、いやかなり長かったイーノックカウ編ですが、今回でやっと終了です。
今調べたら110話以上続いたんですね。
話によっては開幕から完結まで行きそうな話数ですw
でも、これが終わった事でやっとこの物語のメインヒロインを出す事ができます。
流石に次回は家族の話になりますが、すぐに出てくることになるんだろうなぁ。
……長いエピソードにならないように気を付けないとw